こんにちは、獣医師の藤原(嫁)です。
冒頭からインパクト大の写真、、、これは6歳になる我が子です。
誰しもが経験することですが、今も昔も上前歯2本が抜けた子供の顔は愛嬌たっぷり。
幼稚園では『歯が何本抜けたか』が、お友達の間でも度々話題に出てくるようです。
コロナ渦でマスク必須の今、その自慢のお口!?を披露する機会が少ないことが当の本人にとっては不満なようですが、、、
ヒトでは5歳頃から12歳頃にかけて乳歯から永久歯への生え替わりが起こりますが、それは犬や猫でも同様です。
犬や猫では、乳歯が生後3週間頃から生え始め、2カ月齢までに生え揃います。
その後4~5カ月齢から永久歯への抜け替わりが始まり、7カ月齢までに永久歯となるのが一般的です。(品種や個体差あり)
しかし、中には永久歯と乳歯が混在した状態、つまり永久歯が生えてきているのに乳歯が抜けずに残ってしまうことがあります。
これを『乳歯遺残』といいます。
乳歯遺残は、猫ではごく稀ですが、犬、特に短頭種や小型犬で比較的多くみられます。
そんな流れから、今回のコラムは犬における乳歯遺残についてお話ししたいと思います。
これが乳歯遺残、赤矢印で示しているのが抜けないままで残ってしまった乳歯です。
この写真では、上顎下顎の犬歯(一番大きく尖っている牙)の乳歯が左右それぞれ、計4本も残ってしまっています。
本来であれば、乳歯と永久歯が一緒に生えているのは切歯・臼歯で0~数日、上顎犬歯で2~3週間、下顎犬歯で1~2週間といわれています。
しかし、7カ月齢を過ぎても乳歯と永久歯が一緒に並んで生えている場合、その後に乳歯が自然に抜け落ちる可能性は低く、人工的な抜歯の介助が必要となります。
では、乳歯が残ったままの状態ではどういった問題が起こってくるのでしょうか?
まず、永久歯の生えてくるスペースが限られているにも関わらず乳歯が抜けないことが原因となり、永久歯が本来あるべく正常な位置からズレて生えてしまい、不正咬合(正しい噛み合わせができない)を起こしやすくなってしまいます。
歪んで生えてきた永久歯をヒトのように矯正治療する訳にはいきませんが、犬の場合は早い段階で乳歯抜去を行うとズレて生えてきた永久歯も正常な位置に戻ってくれる場合が多いといわれています。
また、乳歯をそのままにしておくと、永久歯と乳歯の間に食べ物が溜まり、歯石の付着や口臭などが発生し、若いうちから歯周病を発症しやすくなります。
もちろん、乳歯遺残のない犬でも歯周病は起こりうる病気ですが、乳歯遺残がある犬ではそのリスクが高まってしまいます。
以上の点から、不正咬合や歯周病のリスクを下げるためにも、当院では乳歯遺残がある場合にはなるべく早期の治療をご提案しています。
治療法は、全身麻酔下で外科的に乳歯を歯根から完全に除去します。
【実際の症例】
7カ月齢のトイプードルちゃん、上顎犬歯に乳歯(赤矢印)と永久歯(青矢印)が認められました。
そこで、飼い主様の希望により避妊手術と同時に乳歯抜去を行いました。
これが実際に抜去した乳歯です。
歯根(歯茎に埋まっている根っこの部分)がしっかりと残っていることが確認できます。
状況から見て、この乳歯が今後自然に抜け落ちることはほぼゼロであっただろうと判断出来ます。
このように、乳歯抜去処置は『乳歯遺残』と診断できる生後7か月齢頃が避妊去勢手術の頃合いの時期にあたることや、全身麻酔を1回で済ませられることから、去勢手術や避妊手術と同時に行うことが一般的です。
仔犬の時期は骨格の成長と同様に、お口の中も日ごとに成長と変化がみられます。
この機会に是非、ご家庭のワンちゃんのお口をチェックしてみてくださいね。