こんにちは、獣医師の藤原(嫁)です。
犬の発情期は、性成熟に達してから超高齢になるまで、一般的には年1~2回訪れます。
ヒトの場合は閉経がありますが、犬の場合はヒトの年齢に換算すると50歳前後である7~8歳でも妊娠することは可能であり、ヒトで言う閉経は訪れません。
今回は、不妊手術を受けていない女のコのわんちゃんの4頭に1頭程度の高確率で生じる病気である子宮蓄膿症(しきゅうちくのうしょう)についてお伝えします。
子宮蓄膿症とは、簡単に言うとその名前の通り、 『細菌感染を起こしてしまった子宮内に膿が溜まってしまう』病気です。
症状としては、
・陰部から膿が出る(開放性の場合)
・発情出血がいつもより長い
・元気や食欲が低下する
・水をよく飲む
・嘔吐や下痢をする
などが挙げられます。
日常の診察でも、未避妊の中高齢犬で発情が見られた1~2か月後(発情休止期)に「最近やたらと水をガブガブ飲むようになった」、「元気・食欲がない」、「おなかが膨らんできている」、そういった飼い主さんからの典型的なわかりやすい訴えがあれば、先ずは子宮蓄膿症を疑います。
そんな子宮蓄膿症には2種類のタイプがあります。
①溜まった膿が陰部から排膿される開放性
②溜まった膿が陰部から排膿されない閉鎖性
閉鎖性は膿が排膿されない為、お腹の中でパンパンに膨らんだ子宮が破裂してしまう可能性が高く非常に危険です。
また、開放性であっても子宮内で増えた細菌や毒素が身体中に周り敗血症や、循環障害からの腎不全などの命に関わる合併症につながることもあり、結局はどちらにしても大変危険な状態となります。
子宮蓄膿症の診断は、血液検査で白血球数の増加による強い炎症反応やCRPという急性期の炎症マーカーの測定を行い、超音波検査(エコー)やレントゲン検査により拡張した子宮の確認をすることで診断をしていきます。
では、当院での症例写真を挙げながら具体的に説明していきますね。
解剖学的に、犬の卵巣は左右に一対あり、これがY字型の子宮角で子宮に連絡しています。
☆正常な子宮卵巣像
☆子宮蓄膿症症例の子宮卵巣像(閉塞性)
正常写真と比較してもその違いは明らかであり、大量の膿を含んでパンパンに膨らんで今にも破裂しそうな子宮が確認出来ます。
水風船がそうであるように、こうなってしまった子宮は大変脆く、摘出手術には細心の注意を必要とします。
万が一、開腹時に既に子宮が破れてお腹の中に内容物(膿や細菌)が漏れ出てしまっている場合には、腹膜炎が起こってしまうために死亡リスクはより高まります。
子宮蓄膿症の治療方法は、外科的に膿がたまった子宮と卵巣を取り除くことが第一選択肢となります。
また同時に、増殖した細菌を抑え込むための抗生剤投与もとても重要です。
外科手術の術式としては子宮卵巣摘出術(避妊手術)と大きく変わりませんが、前述したとおり子宮蓄膿症に伴った様々なレベルの合併症を生じていることも多く、通常の避妊手術と比べて緊急性を要することからも非常にリスクの高い手術となります。
さらには、術後も数日間の入院を要し、回復までにはかなりの時間を要します。
子宮蓄膿症は、膿がたまる場所をなくすこと、つまり、避妊手術によって100%予防できる病気です。
体力のある若いうちに避妊手術をすることをお勧めしています。
また、犬ほど高確率ではないものの、猫でもまれにみられる病気でもあります。
子宮蓄膿症は早期発見・早期治療で完治の望める病気です。
もしも、ご自宅のワンちゃんが避妊手術をしておらず、上記の症状がみられる場合には早めにご相談くださいね。