こんにちは、獣医師の藤原(嫁)です。

フィラリア予防、狂犬病予防接種のシーズン到来!!
この時期の待合室は、大型から小型まで、ワンちゃん達で埋め尽くされます。
健康で病気や怪我とは無縁であれば、今の予防の時期やワクチン接種のタイミングが年に1〜2回の希少な動物病院受診というワンちゃんも少なくないかと思います。
診察台で、久々に聴診器をあてると、、、心雑音が!!
という事例に遭遇します。



8歳齢を過ぎた小型犬の心臓病で特に多いのが「僧帽弁閉鎖不全症」です。

 

 


これは心臓の僧帽弁がきちんと閉まらなくなることにより、左心室から左心房への血液の逆流(僧帽弁逆流)が生じてしまう病気です。
その結果、心臓への負担が大きくなり、血液をスムーズに全身へ送り出すポンプの役目を果たせなくなってしまうのです
しかし、期段階では特に症状もなく、診察の際に聴診で心雑音が聴取されて初めて気がつくことが多いです

 

 


病態が進行すると、僧帽弁逆流の悪化に伴って運動不耐性、疲れやすいなどの症状が出てきますが、徐々に進行するため、一緒に過ごす飼い主さまでもこのような変化にはなかなか気がつきにくいようです。
さらに僧帽弁逆流が悪化すると、心臓が拡大してくることで気管や気管支を圧迫して頑固な咳が出てくるので、咳がなかなか治まらないような場合は注意が必要です。


【僧帽弁閉鎖不全症と診断された犬のご家庭での注意点】


塩分摂取量を抑える
塩分(正確にはナトリウム)の過剰摂取は血圧を上昇させ、心臓にも負担をかけてしまいます。


体重を落とさない
過去には「脂肪(または肥満)」は心臓の負担になるから、心臓病の犬は減量すべき」と推奨されていましたが、現在ではその逆の考え方が主流となっています。
僧帽弁閉鎖不全症と診断されてから体重が増加した、低下した、変わらなかった犬の生存期間を解析したアメリカの研究では、体重が増加した犬の生存期間が最も良好だったとの報告があります。詳細な機序は不明ですが、体重を低下させる際に、脂肪だけでなく筋肉(心臓は心筋という筋肉で構成されています)も失われることが原因ではないかと考えられています。
つまり、やや大げさに表現すれば、心臓病の犬のダイエットは、心筋にもダイエットを強いることになるのです。


たんぱく質の摂取を心がける
主にたんぱく質で構成されている心臓の心筋組織を栄養面でサポートするためには、十分な量のたんぱく質(肉でも魚でもO.K.)を摂取させることが大切です。


散歩に出かける
近年では、僧帽弁閉鎖不全症の重症度とは無関係に、犬が散歩に行きたいアピールをするなら、できるだけ散歩に連れていった方が良いという考え方が広がってきています。
その根拠は、
①散歩が僧帽弁閉鎖不全症に有害であることは知られていないこと
②欧米の獣医心臓専門医は皆、散歩を推奨していること
③散歩は全身循環を改善し、排便を促す作用があり、同時に空腹感を刺激し、体重減少に抑制的に作用すると考えられること
④家族と犬の良好な関係を維持する上で重要と考えられること
などがあります。
ご家族の方がゆっくり歩くスピードに犬が小走りでついていく程度のスピードが理想で、時間は30分程でも構いませんが、犬が散歩の意欲を示さない時は止めておきましょう。


フィラリア症を予防する
たとえ僧帽弁閉鎖不全症そのものは軽度であっても、フィラリア症に感染して心臓に新たな負荷が生じれば、心臓病は急速に進行する可能性が高まります。
神戸市や明石市であれば、12月まで毎月きちんと予防しましょう。


自宅での安静時呼吸数を数える
リラックスできるご自宅での愛犬の安静時呼吸数を常日頃から観察しておくことが非常に大切です。
僧帽弁閉鎖不全症の犬では40回/分を上回った場合、非常に高い確率で肺水腫であることが多いです。


処方された薬を毎日きちんと投薬する
症状や重症度によって治療薬の種類や数は異なりますが、心臓の負担を減らすための血管拡張薬や利尿剤の使用が治療の主体となります。
また、心臓の収縮力を高めるための強心薬や咳の症状に対する気管支拡張薬の投与、症状に応じて抗生物質の投与なども行います。

 

 


この病気は進行性であり、一度症状が現れると自然と治ることはほぼ難しいため、放っておくと病気は徐々に進行してしまいます。
元気や食欲があっても、定期的な受診とお薬は忘れないようにしましょうね